甘苦い
あまにがい
形容詞
標準
文例 · 用例
「まあこんなところがあるの」かの女は閃く感覚を「猫の瞳」だの「甘苦い光の澱み」だのと手早くノートしていると、規矩男は浮き浮きした声で云った。
— 岡本かの子 『母子叙情』 青空文庫
私にも何となく甘苦い哀愁が抽き出されて、ふとそれがいつか知らぬ間に海の上を渡っている若い店員にふらふらと寄って行きそうなのに気がつくと、「なにを馬鹿らしい。
— 岡本かの子 『河明り』 青空文庫
滝は、「ナンシー・リー」の単純な朗らかさに加へて、独特なそこはかとない一脈の甘苦い哀音が漂うてゐる韻律に酔はされて、今もなほそれが口笛を吹く時の習慣になつて遺されてゐた。
— 牧野信一 『雪景色』 青空文庫
青い眼のくぼんだ誰が見ても不愉快な顔つきをした千世子は甘苦い様な臭剥を飲みながらこんな事を云った。
— 宮本百合子 『千世子(三)』 青空文庫
甘苦い微笑が唇に浮んだ。
— 岸田國士 『双面神』 青空文庫
寧ろ「人間が嫌ひ」であることを悲しむ、その甘苦い涙こそ、あなたの有つてゐる詩なのだ。
— ――「葡萄畑の葡萄作り」――序 『訳者より著者へ』 青空文庫
私は今なほはつきり、この寝起きの甘にがい涙の味を、心に呼びかへすことができる。
— 神西清 『母たち』 青空文庫
……思へばあの貝殻の出来事のあとで味はつたあの甘にがい涙も、果して人間的な涙の萌芽であつたかどうかは疑はしい。
— 神西清 『母たち』 青空文庫