蓉
よう
名詞
標準
文例 · 用例
どの宿という心当りもなかったが、無作法なる宿引きが、電車の中の客席へ割り込んで、あまりにツベコベと、一つの宿屋を吹聴するので、宿引の来ない宿屋にゆくに限ると決め、電車の窓から投げ込まれた引札の中から選り取って、大外河を姓とする芙蓉閣なる宿屋へ、昼飯を食べに入った。
— 小島烏水 『不尽の高根』 青空文庫
富士山を見ると、雪の真っ白なときには、頂上の八朶の芙蓉に譬えられた峰々がよく別る。
— 小島烏水 『高山の雪』 青空文庫
これが薔薇のみならず、萩にもどうだんにも芙蓉にも夥しくついている。
— 寺田寅彦 『蜂が団子をこしらえる話』 青空文庫
それにしても、ずっと昔私はどこかで僧|心越の描いた墨絵の芙蓉の小軸を見た記憶がある。
— 寺田寅彦 『烏瓜の花と蛾』 青空文庫
例へば四つ目垣でも屋根でも芙蓉でも鷄頭でも、未だ嘗て此れで稍滿足だと思ふやうに描けた事は一度もないのだから、いくら描いてもそれはいつでも新しく、いつでもちがつた垣根や草木である。
— 寺田寅彦 『寫生紀行』 青空文庫
どの姉妹も活々して、派手に花やかで、日の光に輝いている中に、独り慎ましやかで、しとやかで、露を待ち、月にあこがるる、芙蓉は丈のびても物寂しく、さした紅も、偏えに身躾らしく、装った衣も、鈴虫の宿らしい。
— 泉鏡花 『婦系図』 青空文庫
玉の腕は真の玉よりもよく、雪の膚は雨の結晶せるものよりもよく、太液の芙蓉の顔は、不忍の蓮よりも更に好し、これを然らずと人に語るは、俳優に似たがる若旦那と、宗教界の偽善者のみなり。
— 泉鏡花 『醜婦を呵す』 青空文庫
…… 萩も芙蓉も、此の住居には頷かれるが、縁日の鉢植を移したり、植木屋の手に掛けたものとは思はれない。
— 泉鏡花 『玉川の草』 青空文庫