添乳
添乳
名詞
標準
文例 · 用例
犬張子が横に寝て、起上り小法師のころりと坐った、縁台に、はりもの板を斜めにして、添乳の衣紋も繕わず、姉さんかぶりを軽くして、襷がけの二の腕あたり、日ざしに惜気なけれども、都育ちの白やかに、紅絹の切をぴたぴたと、指を反らした手の捌き、波の音のしらべに連れて、琴の糸を辿るよう、世帯染みたがなお優しい。
— 泉鏡花 『海異記』 青空文庫
階下で添乳をしていたらしい、色はくすんだが艶のある、藍と紺、縦縞の南部の袷、黒繻子の襟のなり、ふっくりとした乳房の線、幅細く寛いで、昼夜帯の暗いのに、緩く纏うた、縮緬の扱帯に蒼味のかかったは、月の影のさしたよう。
— 泉鏡花 『女客』 青空文庫
」 と客に云って、細君は、小児に添乳の胸白く、掻巻長う、半ば起きて、「串戯ではなくってよ。
— 泉鏡花 『沼夫人』 青空文庫
そして土井が寝床についてからも、子供に添乳をしながら、いつ迄も目ざめてゐるらしかつた。
— 徳田秋聲 『閾』 青空文庫
郊外には主人が留守で、美しく若い夫人丈が淋しく子供に添乳なぞをしている家が多い。
— 松永延造 『職工と微笑』 青空文庫
一間半の襖を隔てて南向の室には細君が数え年三つになる、めん子さんと添乳して横になる。
— 夏目漱石 『吾輩は猫である』 青空文庫
童泣き、かつくぐもりて、添乳する母も寢伸びぬ。
— 薄田泣菫 『泣菫詩抄』 青空文庫
この幾年に幾度も思ひしはこの家のこと、思ひし毎に少しづつ変へし間取りのさまなどを心のうちに描きつつ、ラムプの笠の真白きにそれとなく眼をあつむれば、その家に住むたのしさのまざまざ見ゆる心地して、泣く児に添乳する妻のひと間の隅のあちら向き、そを幸ひと口もとにはかなき笑みものぼり来る。
— 石川啄木 『呼子と口笛』 青空文庫