褄先
つまさき
名詞
標準
文例 · 用例
その細腰を此方へ、背を斜にした裾が、脛のあたりへ瓦を敷いて、細くしなやかに掻込んで、蹴出したような褄先が、中空なれば遮るものなく、便なさそうに、しかし軽く、軒の蜘蛛の囲の大きなのに、はらりと乗って、水車に霧が懸った風情に見える。
— 泉鏡花 『草迷宮』 青空文庫
その蔭から、しなやかな裳が、土手の翠を左右へ残して、線もなしに、よろけ縞のお召縮緬で、嬌態よく仕切ったが、油のようにとろりとした、雨のあとの路との間、あるかなしに、細い褄先が柔かくしっとりと、内端に掻込んだ足袋で留まって、其処から襦袢の友染が、豊かに膝まで捌かれた。
— 泉鏡花 『春昼後刻』 青空文庫
華麗な気の放たれることは昔にましたお姿であると思った源氏は前後も忘却して、そっと静かに帳台へ伝って行き、宮のお召し物の褄先を手で引いた。
— 榊 『源氏物語』 青空文庫
若君は衣服の褄先を引いて音をさせてみた。
— 乙女 『源氏物語』 青空文庫
褄先が乱れて、穿いていたものも失くしてしまった。
— 三上於菟吉 『雪之丞変化』 青空文庫
襦袢の半襟だけがぼってりと厚く、帯をきゅっと引き締め、腰から下は細そりして、褄先を心持ち八文字に着こなしている。
— 豊島与志雄 『無法者』 青空文庫
「まず用件を片づけよう」佳奈が坐るなり彼は云った、「佳奈の持参金は幾らくらいだ」 坐って、いま褄先を直していた佳奈は、そのまま手を止めて、不審そうに彼を見あげた。
— 山本周五郎 『改訂御定法』 青空文庫
その時、大円房覚明は、無反の戒刀を兜巾のいただきまでふりかぶって、炬のような双の眼に必殺の気を漲らせ、「おおウッ」 と、獣の如き喚きをあげ、剣前何ものも無碍、いきなり新九郎の平青眼を踏み割るが早いか、さっと、脳天から褄先へかけて斬り込んできた。
— 吉川英治 『剣難女難』 青空文庫