辺無
へんむ
名詞
標準
文例 · 用例
同じ思いが、仲間の顔色に読まれる、飯を炊くのに、未だ時間がある、思い切って天幕から一、二間歩き出した、岩を二ツ三ツ飛び越えて、次第に爪先が上る、無辺無限の単調の線が、どこへ繋がって、どこへ懸っているのか、解らない……やはりあの空線の一つを辿っている。
— 小島烏水 『白峰山脈縦断記』 青空文庫
詩の世界は人間界の実象のみの占領すべきものにあらず、昼を前にし夜を後にし、天を上にし地を下にする無辺無量無方の娑婆は、即ち詩の世界なり、その中に遍満するものを日月星辰の見るべきものゝみにあらずとするは、自然の憶度なり。
— 北村透谷 『他界に対する観念』 青空文庫
この寺の建築は小き者なれど此処の地形は深山の中にありてあるいは千仞の危巌突兀として奈落を踏み九天を支ふるが如きもあり、あるいは絶壁、屏風なす立ちつづきて一水|潺々と流るる処もあり、とにかくこの辺無双の奇勝として好事家の杖を曳く者少からず。
— 正岡子規 『墨汁一滴』 青空文庫
上杉征伐に功のあった三河の鈴木伝助の裔で、榊原に仕えて代々|物頭列を勤めてきたが、伝内は神田お玉ヶ池の秋月|刑部正直の高弟で義世流の達人であり、無辺無極流の槍もよく使うので、先代政祐のとき、番頭兼用人に進んで役料とも七百石を給わるようになった。
— 久生十蘭 『鈴木主水』 青空文庫
そのうちの一着の如きはつい最近も、「無辺無量の幻想が胴の一点に凝っている」と評してあった。
— TUPEJNYJ HUDOZHNIK 『かもじの美術家』 青空文庫
言いかえればセルゲイは、女をすっかり惚れこませてしまって、わが身にたいする女の無辺無量の献身を、まんまとその手に収めたわけである。
— LEDI MAKBET MCENSKOVO UEZDA 『ムツェンスク郡のマクベス夫人』 青空文庫
その刹那カテリーナ・リヴォーヴナの胸に煮えくり返った情念も、無辺無量のものがあった。
— LEDI MAKBET MCENSKOVO UEZDA 『ムツェンスク郡のマクベス夫人』 青空文庫
だが、体内を調べると植物であるとの証拠が余りに多く得られ、その結果レイクは絶海の中に寄る辺無く投げ出される形になったのだ。
— H. P. ラヴクラフト H.P.Lovecraft 『狂気の山脈にて』 青空文庫