雲翳
うんえい
名詞
標準
文例 · 用例
その間も、時々彼の心を雲翳のやうに暗く過るのは娘のことであつた。
— 梶井基次郎 『川端康成第四短篇集「心中」を主題とせるヴァリエイシヨン』 青空文庫
それ等は実に今日まで私の思い出を曇らせる雲翳だったのです) 街を走る電車はその晩電車固有の美しさで私の眼に映りました。
— ――或る私信―― 『橡の花』 青空文庫
大戸の鍵を外から掛けて三|人が庭に立つた時月は雲翳を遠ざかつて靜かに※の木の上に懸つて居た。
— 長塚節 『土』 青空文庫
外を見ると明るい空は青く澄んで一片の雲翳もない。
— 長塚節 『佐渡が島』 青空文庫
四 四月二十八日午前九時 今日は空前の早起致し候ため、実は雨でも降るかと心配仕り候処、春光嬉々として空に一点の雲翳なき意外の好天気と相成、明け放したる窓の晴心地に、壁上のベクリンが画幀も常よりはいと鮮やかに見られ候。
— 石川啄木 『渋民村より』 青空文庫
個人としても国民としても自ら悪意や猜疑心を以て暗雲を立て、東西の方角までも朦朧たらしむるに代え、善意と友情によりて碧空一点の雲翳を止めざる所まで昇るを要する。
— 新渡戸稲造 『東西相触れて』 青空文庫
未來への探照燈めいたうすら明りそこに重重しくも老いたる地球の時間の幕と波濤を重ね、かさね青黒き深林帶へまで、又は谿の陰影へまでほがらかなる夕映から夜の色を塗りかへようとしてゐるのをこんなにも寂默として見送り、見送り自身が自然への雲翳として存在しては。
— 佐藤惣之助 『季節の馬車』 青空文庫
日暮風歇みて一天雲翳なし。
— 断膓亭日記巻之二大正七戊午年 『断腸亭日乗』 青空文庫