紋入り
もんいり
名詞
標準
文例 · 用例
老僕が無言でわたしに背を向けた途端に、お仕着せのひどくすり切れた背中が丸見えになって、そこに赤さびの出た定紋入りのボタンが、ぽつんと一つ残っているのが目についたが、彼はそのまま皿を床へ置くと、奥へ引っ込んでしまった。
— ツルゲーネフ 『はつ恋』 青空文庫
二挺ともにためぬり、定紋入りの屋敷駕籠なのでした。
— 千代田城へ乗り込んだ退屈男 『旗本退屈男 第十一話』 青空文庫
不足があったら、親にいいなよ」 右からわめき、左からののしる声の間を、急がず遅れず溜め塗りご定紋入りのお駕籠をうたせて、格式どおりのお供人を従えながら、しずしずとさしかかってきたのは、だれでもない松平の御前でした。
— 献上博多人形 『右門捕物帖』 青空文庫
そこでその謝礼とあって今年の春の事、薩州から内密に大島の塙代の家へ船を廻して、莫大もない金銀と、延寿国資の銘刀と、薩摩焼御紋入りのギヤマンのお茶器なんどいう大層な物を、御使者の手から直々に塙代与九郎へ賜わったという話な……御存じじゃろうが」「存じませいでか。
— 夢野久作 『名君忠之』 青空文庫
(あれかも知れん) と、足を早めて、提灯を見ると、それは駕屋のものでなく、定紋入りの提灯であった。
— 直木三十五 『南国太平記』 青空文庫
仲間は、手の、定紋入りの提燈をこわすまいとかばって、骨を折っていた。
— 林不忘 『巷説享保図絵』 青空文庫
老人は左手に家紋入りの提灯を、右手に白扇を持ち、二人の前までくると、荘重に白扇をかまえ、「ようこそ、お帰り」 と地謡の調子で宣りあげると、文女は迸りでるような声で、「おじいちゃん」 というと、肩を震わせて、はげしく泣きだした。
— 久生十蘭 『西林図』 青空文庫
……殿様の褥に大あぐらをひっかき、酒を持って来いの、小鉢だのと、女賊を顎で追いつかい、しなだれるやら、色眼をつかうやら、恐れげもなく殿様の御定紋入りの羽織など着くさって、おれがここに控えておれば、金蔵破りのほうはいっさい心配はいらぬと大仰な頬桁をたたいておったのを、わしはたしかにこの耳で聞いたぞ。
— 菊香水 『顎十郎捕物帳』 青空文庫