沈
ちん
名詞
標準
文例 · 用例
明敏精察でそして沈着冷静という態度で、常に人に接するから逢う人は必ず畏敬の念を起すと同時に容易に近づく事の出来ぬという趣があった。
— 伊藤左千夫 『正岡子規君』 青空文庫
九才の童子が井戸の底へ沈んだ小刀を引上げることは、仁川沖の沈没軍艦を引上げるよりは少し六つかしい位だ。
— 伊藤左千夫 『井戸』 青空文庫
第四句第五句なども「あまた立ちたり見るにさびしも」と明晰に云って終えば口調は強くなるけれども、淋しい沈んだ気持は現われない。
— 伊藤左千夫 『歌の潤い』 青空文庫
自分はこう考えて、浮かぶことのできない、とうてい出ずることのできない、深い悲しみの淵に沈んだような気がした。
— 伊藤左千夫 『奈々子』 青空文庫
沈黙した三人はしばらく恨めしき池を見やって立ってた。
— 伊藤左千夫 『奈々子』 青空文庫
「僕は学校へ往ってしまえばそれでよいけど、民さんは跡でどうなるだろうか」 不図そう思って、そっと民子の方を見ると、お増が枝豆をあさってる後に、民子はうつむいて膝の上に襷をこねくりつつ沈黙している。
— 伊藤左千夫 『野菊の墓』 青空文庫
僕はしばらく立って何所を眺めるともなく、民子の俤を脳中にえがきつつ思いに沈んでいる。
— 伊藤左千夫 『野菊の墓』 青空文庫
さてもお父樣は幾年の前にか失せ給ひし、お前さまの親御樣なれば御年もまだお若かりしならんと問へば、いや若しといふほどにはあらず、別れしは八年の前おもへば夢のやうな別れ成しとあるに、さらば御病氣は俄の病にてやありしと、たゝみかけて問へば、何の病氣かは、我が父はこれこの池に身を沈め給ひしなり。
— 一葉 『暗夜』 青空文庫