釘着
ていちゃく
名詞
標準
文例 · 用例
人も一定の職業、土地、營養、宗教、習慣、智識等に繩縛釘着せらるゝ時は、或度までは慥に發達し、且つ幸福なるも、其後は自然に其の繩を脱し釘を去らんことを欲するに至る傾が有る。
— 幸田露伴 『努力論』 青空文庫
人と菽とを同一に論ずることは出來ぬが、三代以上純粹の倫敦人は漸く羸弱に傾くといふ説の生じたるが如き事實は、たゞに都會生活の不良なる事を語るのみでは無く、人が或る状態に繩縛釘着せらるゝことを幸とせずして、新に就き舊を去るを幸とする内的要求に左右さるゝところの有ることを語つて居るのでは有るまい歟。
— 幸田露伴 『努力論』 青空文庫
この扉は釘着になしありて、数年来開きしことなきものゝ如くなりき。
— THE MURDERS IN THE RUE MORGUE 『病院横町の殺人犯』 青空文庫
日光の射すのは往来に向いた格子附の南窓だけで、外の窓はどれも雨戸が釘着けにしてある。
— 小栗風葉 『世間師』 青空文庫
あまりのことに旦那様は物も仰らず、身動きもなさらず、唯もう御二人を後から眺めて、不動其処へ棒立のまま――丁度、釘着にして了った人のように御成なさいました。
— 島崎藤村 『旧主人』 青空文庫
二 顔を掠めて、ひらりと落ちた桔梗の花のひとひらにさえ、音も気遣う心から、身動きひとつ出来ずにいた、日本橋通油町の紙問屋橘屋徳兵衛の若旦那徳太郎と、浮世絵師春信の彫工松五|郎の眼は、釘着けにされたように、夕顔の下から離れなかった。
— 邦枝完二 『おせん』 青空文庫
銀煙管を握った徳太郎の手は、火鉢の枠に釘着けにされたように、固くなって動かなかった。
— 邦枝完二 『おせん』 青空文庫
「臆病であってはならない、どんな光景にも顔を背けてはいけない」―――そう云う意識が、少年の眼を何より先にその室内の最も恐ろしい物体の上へ釘着けにした。
— 谷崎潤一郎 『武州公秘話』 青空文庫