暮靄
ぼあい
名詞
標準
文例 · 用例
春の思ひ出摘み溜めしれんげの華を 夕餉に帰る時刻となれば立迷ふ春の暮靄の 土の上に叩きつけいまひとたびは未練で眺め さりげなく手を拍きつつ路の上を走りてくれば (暮れのこる空よ!
— 中原中也 『山羊の歌』 青空文庫
斜陽は既に薄れ、暮靄の気配。
— ―――一幕三場 『春の枯葉』 青空文庫
一時間ほどして船が再び棧橋に着いた時、函館の町はしらじらとした暮靄の中に包まれてゐたが、それは夕べの港の活躍の時であつた。
— 南部修太郎 『處女作の思ひ出』 青空文庫
諸君が二十世紀の都会の街路で、このような、うらないを、暮靄ひとめ避けつつ、ひそかに試みる場合、必ずしも律儀に三人目のひとを選ばずともよい。
— 太宰治 『懶惰の歌留多』 青空文庫
暮靄寒村をこむる夕方、片品川の水声を聞きつつ淀屋というへ泊す。
— 井沢衣水 『本州横断 痛快徒歩旅行』 青空文庫
(十三) 我が四畳半 (四) 壁は蒼茫たる暮靄の色をなし、幾十の年光に侵蝕せられて、所々危うげなる所なきにあらず。
— 石川啄木 『閑天地』 青空文庫
学校の門と、垣で夕日のさし残ったところと、暮靄の中に富士の薄く出ているところと、それに生徒の顔の写生が一枚あった。
— 田山花袋 『田舎教師』 青空文庫
殷紅血を流すが如き夕燒の空を背にして進みゆくほどに、暮靄、乾坤を封じて、老杉の下の小路くらく、燈を點ずる頃、鹿野山宿に達す。
— 大町桂月 『房州紀行』 青空文庫