蕩然
とうぜん
形容動詞
標準
文例 · 用例
――ただ一雫の露となって、逆に落ちて吸わりょうと、蕩然とすると、痛い、疼い、痛い、疼いッ。
— 泉鏡花 『貝の穴に河童の居る事』 青空文庫
泥のままのと、一笊は、藍浅く、颯と青に洗上げたのを、ころころと三つばかり、お町が取って、七輪へ載せ、尉を払い、火箸であしらい、媚かしい端折のまま、懐紙で煽ぐのに、手巾で軽く髪の艶を庇ったので、ほんのりと珊瑚の透くのが、三杯目の硝子盃に透いて、あの、唇だか、その珊瑚だか、花だか、蕾だか、蕩然となる。
— 泉鏡花 『古狢』 青空文庫
爺は先達の婦のことを思い出すと、背中を丸くすぼめて蕩然と蒼空を眺めつつ、「わっしも嬶さ迎えにゃな」といつも呟いた。
— 金史良 『土城廊』 青空文庫
その結果、無言のまま力ない歯がみをつづけ、腹を立てようにも、結局、相手がないのをぼんやり考えながら、蕩然と惰性の中に感覚を麻痺させてしまうのだ。
— ЗАПИСКИ ИЗ ПОДПОЛЬЯ 『地下生活者の手記』 青空文庫
節義の風、廉恥の俗、蕩然地をはらう。
— 再版につきて一言を題す 『妖怪学講義』 青空文庫
何物にかぎらず多年使い馴れた器物を愛惜して、幾度となく之を修繕しつつ使用していたような醇朴な風習が今は既に蕩然として後を断ったのも此の一事によって推知せられる。
— 永井荷風 『巷の声』 青空文庫
これによってお玉ヶ池の地は久しい間東都文雅の淵叢となっていたが、度々の火災に二家の旧居も蕩然としてその跡なく「都門の文雅も遂に寥落を致す。
— 永井荷風 『下谷叢話』 青空文庫
毅堂の随筆『親灯余影』の序に「丙午ノ春余昌平黌ニアリ祝融ノ災ニ罹リ平生ノ稿本|蕩然トシテ烏有トナル。
— 永井荷風 『下谷叢話』 青空文庫