浅春
せんしゅん
名詞
標準
文例 · 用例
反歌柿|双樹 梅|五三本 この庭のさましづかなり小雨流らふ多摩の浅春造り酒屋の歌水きよき多摩のみなかみ、南むく山のなぞへ、老杉の三鉾五鉾、常寂びて立てらくがもと、古りし世の家居さながら、大うから今も居りけり。
— 北原白秋 『篁』 青空文庫
反歌荒彫の木彫の牛のみぎり角ほきり欠きたり思ひかねきや水仙と菊〔「水仙と菊」の章に〕浅春春はまだ浅き菜畠、白き鶏日向あさるを、水ぐるままはるかたへの、※障子さみしくあけて、女の童ひとり見やれり、外の青き菜を。
— 北原白秋 『篁』 青空文庫
陶然たるものを夢見ようと、夙に白面なる眼を挙げて灯台のあかりなどを見あげてゐる静かなる浅春の島の夜半に過ぎない。
— 牧野信一 『半島の果にて』 青空文庫
冬の夜の暖かい静かな室、春霞の軒に煙る浅春の宵――凝とたゞひとり机の前に坐つてゐると、大抵の方はこの法悦の気持に入ることが出来るだらうと思ひます――意味のない悲しさと悦ばしさとに感ずる淡い涙、支那の有名な詩人白楽天が「春宵の一刻価千金」と云つたのも、つまり「法悦」の喜びをうたつたのであります。
— 牧野信一 『嘆きの孔雀』 青空文庫
小説の形式では、その年の正月から約二ヶ月、東京朝日新聞の夕刊に『浅春譜』と云うのを発表していましたが、大変失敗の作でした。
— 林芙美子 『文学的自叙伝』 青空文庫
(3ノ三)浅春の雪のすがすがしさと柔らかさを描こうとしたらしい絵で版がわるいから垣のむこうがゴタゴタして残念です。
— 一九四三年(昭和十八年) 『獄中への手紙』 青空文庫
浅春という感じに満ちて庭を彼方此方、歩き廻りながら日を浴び、若芽を眺めるのは、実に云い難い悦びであった。
— 宮本百合子 『透き徹る秋』 青空文庫
早春そこを通ったので雪解の河原、その河原に茂っている多分|河楊だろう細かく春浅い枝をひろげた灌木、山又山とほんのり芽ぐみつつまだ冬枯れの密林が連った光景、そこへそのような屋根を点々と、如何にも山村浅春の趣が深かった。
— 宮本百合子 『夏遠き山』 青空文庫