思い為し
おもいなし
名詞
標準
文例 · 用例
膚の細い、黄い石や、黒い石の上を辷ると、思いなしか、沈んだ、冴えた声をして、ついと通る。
— 小島烏水 『白峰山脈縦断記』 青空文庫
そして、思いなしか、眼の光にも曇りが出来て、何となしに憔悴した表情がこの人の全外容に表われているのであった。
— 寺田寅彦 『雑記(2)』 青空文庫
何は措ても、余所ながら真砂町の様子を、と思うと、元来お蔦あるために、何となく疵持足、思いなしで敷居が高い。
— 泉鏡花 『婦系図』 青空文庫
これが、不思議に客人の気を悪くして、入相の浪も物凄くなりかけた折からなり、あの、赤鬼青鬼なるものが、かよわい人を冥土へ引立てて行くようで、思いなしか、引挟まれた御新姐は、何んとなく物寂しい、快からぬ、滅入った容子に見えて、ものあわれに、命がけにでも其奴らの中から救って遣りたい感じが起った。
— 泉鏡花 『春昼』 青空文庫
優しい柔かな声が、思いなしか、ちらちらと雪の降りかかるようで、再び悚然として息を引く。
— 泉鏡花 『鷭狩』 青空文庫
「――あれあれ、」 女山伏の、優しい声して、「思いなしか、茸の軸に、目、鼻、手、足のようなものが見ゆる。
— 泉鏡花 『木の子説法』 青空文庫
脣の色少しく褪せたるに、玉のごとき前歯かすかに見え、眼は固く閉ざしたるが、眉は思いなしか顰みて見られつ。
— 泉鏡花 『外科室』 青空文庫
思いなしか、気のせいか、段々|窶れるようには見えるけんど、ついぞ膝も崩した事なし、整然として威勢がよくって、吾、はあ、ひとりでに天窓が下るだ、はてここいらは、田舎も田舎だ。
— 泉鏡花 『琵琶伝』 青空文庫