差し伸ばす
さしのばす
動詞
標準
文例 · 用例
私はその固いものが指先に触れると、その正体が未だよくわからないうちに、一種の不愉快な、蛇の腹に触ったような予感を受けたので、ゾッとして手を引っこめたが、又すぐに神経を取り直して両手をさしのばすと、その緩やかな黒繻子の帯を重なったまま引き上げて、容赦なくブツリブツリと切断して行った。
— 夢野久作 『一足お先に』 青空文庫
それは握手をもとめているらしく思われたので山木はちょっと気味がわるかったが、思い切って自分の手をさしのばすと、ぐっと相手の手をつかんでふった。
— 海野十三 『火星探険』 青空文庫
その酒、コップに入って出てきます」 博士が豚の方に手をさしのばすと、豚の背中がぱくりと左右にひらきその下からうまそうな洋酒が盃にはいって、三つも出てきた。
— 海野十三 『人造人間エフ氏』 青空文庫
一途に何かを照さうとしてゐる、なるほどうるんでぼんやりと光芒をさしのばす。
— 坂口安吾 『蒼茫夢』 青空文庫
」 ささやくように訊ねながら、寝ている紋也の足のほうへ、鈴江はしずかにすわったが、不安そうに顔を差しのばすと、紋也の顔をのぞき込んだ。
— 国枝史郎 『娘煙術師』 青空文庫
手さぐりと不正確とを唾棄する彼にあっては、そして、気負いともったいぶることを軽蔑する彼にあっては、自分で「大きい」と感じるものの方へ手を差しのばす気にならなかったことが、至極もっとものように思われる。
— 岸田国士 『「にんじん」とルナアルについて』 青空文庫
しかし、私が熱のあいまにふと目ざめると、いつも久須美が枕元に、私の氷嚢をとりかえてくれたり、汗をふいてくれたり、私は深い安堵、それはいい訳を逃れた安堵ではなくて心の奥の孤独の鬼と闘い私をまもってくれる力を見出すことの安堵、私が無言で私の二つの腕を差しのばすと、彼はコックリうなずいて、苦しくないか?
— 坂口安吾 『青鬼の褌を洗う女』 青空文庫