薄靄
うすもや
名詞
標準
thin mist
文例 · 用例
その時緑青色のその切立ての巌の、渚で見たとは趣がまた違って、亀の背にでも乗りそうな、中ごろへ、早|薄靄が掛った上から、白衣のが桃色の、水色のが白の手巾を、二人で、小さく振ったのを、自分は胴の間に、半ば袖をついて、倒れたようになりながら、帽子の裡から仰いで見た。
— 泉鏡花 『悪獣篇』 青空文庫
海も空も澄み過ぎて、薄靄の風情も妙に余る。
— 泉鏡花 『悪獣篇』 青空文庫
夜が明けたように広々として、崖のはずれから高い処を、乗出して、城下を一人で、月の客と澄まして視めている物見の松の、ちょうど、赤い旗が飛移った、と、今見る処に、五日頃の月が出て蒼白い中に、松の樹はお前、大蟹が海松房を引被いて山へ這出た形に、しっとりと濡れて薄靄が絡っている。
— 泉鏡花 『朱日記』 青空文庫
詰り、上下が白く曇つて、五六|尺水の上が、却つて透通る程なので…… あゝ、あの柳に、美い虹が渡る、と見ると、薄靄に、中が分れて、三つに切れて、友染に、鹿の子絞の菖蒲を被けた、派手に涼しい裝の婦が三|人。
— 泉鏡太郎 『人魚の祠』 青空文庫
昼はその麦の穂立の中に基督のかげが見え隠れ、夜は祈りの鐘の音が薄靄の間を縫つて静かに静かに栗の木のふところまで流れて来た。
— 愛の詩集のはじめに 『愛の詩集』 青空文庫
この季節特有の薄靄にかげろわれて、熟れたトマトのように赤かった。
— 佐左木俊郎 『土竜』 青空文庫
村々は薄靄に暈かされ夢のように浮いていた。
— 佐左木俊郎 『土竜』 青空文庫
麦やや青く、桑の芽の萌黄に萌えつつも、北国の事なれば、薄靄ある空に桃の影の紅染み、晴れたる水に李の色|蒼く澄みて、午の時、月の影も添う、御堂のあたり凡ならず、畑打つものの、近く二人、遠く一人、小山の裾に数うるばかり稀なりしも、浮世に遠き思ありき。
— 泉鏡花 『一景話題』 青空文庫
作例 · 標準
例句