手鞄
てかばん
名詞
標準
文例 · 用例
「それでおなくなり物は手鞄が一個、懷中時計――金側でございますね――が一個、それからあなたとあなたの紙入――金額は?
— 南部修太郎 『女盗』 青空文庫
「紙入や時計はどうでも好いが、さしづめ困るのは手鞄だ……」 赤鼻はふと和服を振り返つた。
— 南部修太郎 『女盗』 青空文庫
温泉で、見知越で、乗合わした男と――いや、その男も実は、はじめて見たなどと話していると、向う側に、革の手鞄と、書もつらしい、袱紗包を上に置いて、腰を掛けていた、土耳古形の毛帽子を被った、棗色の面長で、髯の白い、黒の紋織の被布で、人がらのいい、茶か花の宗匠といった風の……」 半ば聞いて頷いた。
— 泉鏡花 『半島一奇抄』 青空文庫
」 取り落して人波に踏みつぶされないように、一心に、ひん握っている幹太郎の手鞄を群集の動揺の間隙に眼ざとく認めて山崎は訊ねた。
— 黒島傳治 『武装せる市街』 青空文庫
小屋の真中の勇ましい希臘の彫刻に手鞄を預けて歯朶子と男の逢い曳き――いきなり歯朶子は男の頬をびしゃりと叩いた。
— 岡本かの子 『百喩経』 青空文庫
殆ど女の方を振り向いて見無かったが、女の言葉が終ると黙って頷ずいて手鞄を開け、金貨や紙幣を交ぜて女に渡した。
— 岡本かの子 『ドーヴィル物語』 青空文庫
テームズのロンドン橋でもセーヌの新橋でも使わなかったあの日和下駄を手鞄から取出した。
— 岡本かの子 『橋』 青空文庫
葉子の叔母は葉子から二三|間離れた所に、蜘蛛のような白痴の子を小婢に背負わして、自分は葉子から預かった手鞄と袱紗包みとを取り落とさんばかりにぶら下げたまま、花々しい田川家の家族や見送り人の群れを見てあっけに取られていた。
— 有島武郎 『或る女』 青空文庫