震災前
しんさいまえ
名詞
標準
文例 · 用例
震災前と比べて王子赤羽|界隈の変り方のはげしいのに驚いた。
— 寺田寅彦 『ゴルフ随行記』 青空文庫
震災前の東京は、高い所から見おろすと、ただ一面に鈍い鉛のような灰色の屋根の海であった。
— 寺田寅彦 『LIBER STUDIORUM』 青空文庫
第二の故郷の一つであったIの家はとうの昔に一家離散してしまったが家だけは震災前までだいたい昔の姿で残っていたのに今ではそれすら影もなくなってしまい、昔|帳場格子からながめた向かいの下駄屋さんもどうなったか、今|三越のすぐ隣にあるのがそれかどうか自分にはわからない。
— 寺田寅彦 『銀座アルプス』 青空文庫
東京で震災前までは深川へんで見かけたことのあるあの定斎屋と同じようなものであったらしいが、しかし枇杷葉湯のあの朱塗りの荷箱とすがすがしい呼び声とには、あのガッチンガッチンの定斎屋よりもはるかに多くの過去の夢と市井の詩とを包有していたような気がする。
— 寺田寅彦 『物売りの声』 青空文庫
最近は……尤も震災前だが……土橋のガード下を護謨輪で颯と言ふうちに、アツと思ふと私はポンと俥の外へ眞直に立つて、車夫は諸膝で、のめつて居た。
— 泉鏡太郎 『麻を刈る』 青空文庫
震災前までは、大がい土用の三日四日めの宵から鳴きはじめたのが、年々、やゝおくれる。
— 泉鏡太郎 『麻を刈る』 青空文庫
しかし嘉助の東京は、殆ど震災前の東京だつた。
— 島木健作 『續生活の探求』 青空文庫
庸三は震災前に、庸太郎によってやっと世界の偉大な音楽家の名や曲目を覚えはじめ、子供の時から聞き馴染んで来た義太夫や常磐津が、ビゼイやモツアルトと交替しかけていた時分だったが、この音楽ほど新旧の時代感覚を分明に仕切っているものはなかった。
— 徳田秋声 『仮装人物』 青空文庫