臠
臠
名詞
標準
文例 · 用例
ぽっちり三臠、五臠よりは附けないのに、葱と一所に打ち覆けて、鍋からもりこぼれるような湯気を、天井へ立てたは嬉しい。
— 泉鏡花 『眉かくしの霊』 青空文庫
しかもその日、晩飯を食わせられる時、道具屋が、めじの刺身を一臠箸で挟んで、鼻のさきへぶらさげて、東京じゃ、これが一皿、じゃあない、一臠、若干金につく。
— 泉鏡花 『木の子説法』 青空文庫
一瓶の酒、我を醉はしむるに足らざるも人に其の味を分ち、半鼎の肉、我を飽かしむるに足らざるも人に其の臠を薦むる、是の如き分福の擧動は、實に人の餓狗たらず、貪狼たらざるところを現はすのであつて、啻に幸福を得るの道として論ずべき一箇條と云はんよりは、人としての高貴の情懷の發現といふ可きである。
— 幸田露伴 『努力論』 青空文庫
臠の生干の色のなまぐさに、ふとしも聞きぬ、鹹ゆき潮ざゐの音を。
— 薄田泣菫 『泣菫詩抄』 青空文庫
「崑生はわしの婿だ、禁臠に近づいてはならぬぞ」 姜はそこで懼れて結納をかえした。
— 田中貢太郎 『青蛙神』 青空文庫
何十年来シベリヤの空を睨んで悶々鬱勃した磊塊を小説に托して洩らそうとはしないで、家常茶飯的の平凡な人情の紛糾に人生の一臠を探して描き出そうとしている。
— 内田魯庵 『二葉亭追録』 青空文庫
花薄荷、燃えたつ草叢、火焔の臠、火蛇のやうなこの花の魂は黒い涙となつて鈍染んでゐる。
— 上田敏 『牧羊神』 青空文庫
世はよし、時は桜の春三月なり、聖天子|万機の朝政を臠すによしとて、都とさだめたもうて三十年、国威は日に日に伸びる悦賀をもうし、万民鼓腹して、聖代を寿ぐ喜悦を、公にも、しろしめせとばかり、あるほどの智恵嚢を絞り趣向して、提灯と、飾物と、旗と幔幕と、人は花の巷を練り歩くのであった。
— 長谷川時雨 『一世お鯉』 青空文庫