鳥打ち帽
とりうちぼう
名詞
標準
文例 · 用例
長火鉢に寄っかかッて胸算用に余念もなかった主人が驚いてこちらを向く暇もなく、広い土間を三歩ばかりに大股に歩いて、主人の鼻先に突ったッた男は年ごろ三十にはまだ二ツ三ツ足らざるべく、洋服、脚絆、草鞋の旅装で鳥打ち帽をかぶり、右の手に蝙蝠傘を携え、左に小さな革包を持ってそれをわきに抱いていた。
— 国木田独歩 『忘れえぬ人々』 青空文庫
『オヤいないのだよ』と去ってしまった、それから五分も経ったか、その間身動きもしないで東の森をながめていたが、月の光がちらちらともれて来たのを見て、彼は悠然立って着衣の前を丁寧に合わして、床に放棄ってあった鳥打ち帽を取るや、すたこらと梯子段を下りた。
— 国木田独歩 『郊外』 青空文庫
義雄は、自家の後ろの山のおほ檜の木や、八幡山の樹木やに反映する午後の暑い日光をスコツチの鳥打ち帽の上から浴びて、自分の室の凉しいがまた薄暗いところに坐わつてゐるのよりも、却つてすが/\しい氣持ちになつた。
— 發展 『泡鳴五部作』 青空文庫
お鳥が自分の肩から下の雪を兩手でふり拂つてゐると、義雄はまた鳥打ち帽をかぶり直し、自分の洋服のをふり拂つてゐる。
— 憑き物 『泡鳴五部作』 青空文庫
将来の新日本の中心文化が東京のバラックの下に芽生え育まれているものとすれば、その新文化の骨子たるべき新智識と新思想は、東京の学生が挙って冠る鳥打ち帽の下に養成されている筈である。
— 夢野久作 『街頭から見た新東京の裏面』 青空文庫
「どうも、これも長々ありがとう」と言って、二月ほど前から借りていた鳥打ち帽を取って返した。
— 田山花袋 『田舎教師』 青空文庫
一人は栗橋の船宿の息子で、家には相応に財産があるらしく、角帯に眼鏡をかけて鳥打ち帽などをかぶってよく来た。
— 田山花袋 『田舎教師』 青空文庫
」 時ちゃんは吉さんの鳥打ち帽子の内側をクンクンかぎながら、子供っぽく目をキロキロさせていた。
— 林芙美子 『放浪記(初出)』 青空文庫