撫声
撫声
名詞
標準
文例 · 用例
私が九月のはじめ、甲府から此の三鷹の、畑の中の家に引越して来て、四日目の昼ごろ、ひとりの百姓女がひょっこり庭に現われ、ごめん下さいましい、と卑屈な猫撫声を発したのである。
— 太宰治 『善蔵を思う』 青空文庫
戦争が終って間もなく、ある野外音楽会の実況放送があったが、紹介の放送員はさすがに戦争中と異った型を出そうとしたらしく、「ここ何々の音楽堂の上の青空には、赤トンボが一匹スイスイと飛んでおりまして、まことに野外音楽会にふさわしい絶好の秋日和でございます」と猫撫声に変っていた。
— 織田作之助 『神経』 青空文庫
会議の時に金壺眼をぐりつかせて、おれを睨めた時は憎い奴だと思つたが、あとで考へると、それも赤シヤツのねち/\した猫撫声よりはましだ。
— 夏目金之助 『坊っちやん』 青空文庫
会議の時に金壺眼をぐりつかせて、おれを睨めた時は憎い奴だと思ったが、あとで考えると、それも赤シャツのねちねちした猫撫声よりはましだ。
— 夏目漱石 『坊っちゃん』 青空文庫
猫撫声で長ったらしくって――私ゃ嫌だ」「ハハハハそりゃ好いが――ついに談判は発展しずにしまったんですか」「つまり先方の云うところでは、御前が外交官の試験に及第したらやってもいいと云うんだ」「じゃ訳ない。
— 夏目漱石 『虞美人草』 青空文庫
だが彼は、そんな思ひは努めて気色に現さうとはせずに、この上乱暴をされては面倒だなどと思ひながら、急に猫撫声を出して「お止め、お止め!
— 牧野信一 『「悪」の同意語』 青空文庫
お爺さんは、わざと声を猫撫声にして、『船頭さん、もう出しても好い時分だね』などゝ声をかけた。
— 田山花袋 『朝』 青空文庫
「これはこれはお嬢様、よいお天気でございますなあ」こんな調子に話しかけた、親切らしい猫撫声である。
— 国枝史郎 『南蛮秘話森右近丸』 青空文庫