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淵瀬

ふちせ
名詞
1
標準
文例 · 用例
されば大河を前に、うつろひ易い人生の姿を見てあれば、「水無月や人の淵瀬の大井川」(蓼太)といつたやうな感じに打たれないものはなかつたであらう。
小島烏水 天竜川 青空文庫
人々のいはく「この川飛鳥川にあらねば、淵瀬更にかはらざりけり」といひてある人のよめる歌、「ひさかたの月におひたるかつら川そこなる影もかはらざりけり」。
紀貫之 土佐日記 青空文庫
飛鳥川の明日をも俟たで、絶ゆる間もなく移り變る世の淵瀬に、百千代を貫きて變らぬものあらば、そは人の情にこそあんなれ。
高山樗牛 瀧口入道 青空文庫
標札に金満家てふ銘こそ打つてなけれ、今様風にその肩書を並べなば、何々会社社長何銀行頭取何会社取締役と、三四行には書き切れまじき流行紳商、名さへも金に縁ある淵瀬金三とて、頭の薬鑵と共に、知らぬ人なき五十男、年を問うより世を問へとは、実にこの人の上をいへるにやあらむ。
清水紫琴 野路の菊 青空文庫
いかがなものといひ出でたるを、瘠せても枯れても我は淵瀬、そなたの力を借るまでもないと、初めは笑ひて取合はざりしが、お艶が切に請ふて止まざるにぞ、さらばそなたの気の済むやうと、島の内に相応しき貸家求めさせて望み通り引移らせぬ。
清水紫琴 野路の菊 青空文庫
この間に立ちて殊勝にも、いぢらしきはお静にて、これはお艶の養ひ子とはいへ、稚きより淵瀬の本宅に人となり、石女のお艶の、可愛がるやうにて、怖らしきよりは、万事物和らかに、情け深き本妻お秋の何となく慕はしく、多くはそが傍らに在りしに、お秋もまた遣る方もなき心の憂さを、この無邪気なる少女に慰めむとてか。
清水紫琴 野路の菊 青空文庫
お艶はいつも不興気にて、父様とは往年の事、私をもお前をも、お捨てなされし淵瀬様の事、いつまでも父様といふものでなし。
清水紫琴 野路の菊 青空文庫
果ては笑ひに紛らすを、思ひかねて再び問へば、それ程淵瀬様の恋しくば、そなたの勝手に尋ね行くがよし、味噌漉さげて使ひに遣らるる姿、我は見るのが嫌なれば、その日限り、我とは縁切と思へかしと、それはそれはつれなき詞に。
清水紫琴 野路の菊 青空文庫