潜々
潜々
名詞
標準
文例 · 用例
孝孺之を目して涙下りければ、流石は正学の弟なりけり、阿兄 何ぞ必ずしも 涙|潜々たらむ、義を取り 仁を成す 此間に在り。
— 幸田露伴 『運命』 青空文庫
熟くと見入る眼を放つと共に、老女は皺手に顔を掩ひて潜々と泣出せり。
— 尾崎紅葉 『金色夜叉』 青空文庫
その時私は潜々と泣き出して女に笑われた。
— 夢野久作 『あやかしの鼓』 青空文庫
彼方はるかに白浪の咆ゆる所、檣折れ舷砕けたる廃船の二つ三つ漂へるはバルチツクの海ぞ、そこの岸辺に近く、嘗て実弾の祝砲を見舞はれたる弾痕の壁の下、薄暗き深宮に潜々乎として其妻と共に落涙又落涙、悲しげなる声をあげて祈り、祈りては又泣く一箇|蒼顔痩躯の人を見ずや。
— 石川啄木 『閑天地』 青空文庫
近処のものは、折ふし怪しからぬお噂をする事があって、冬の夜、炉の周囲をとりまいては、不断こわがってる殿様が聞咎めでもなさるかのように、つむりを集めて潜々声に、御身分違の奥様をお迎えなさったという話を、殿様のお家柄にあるまじき瑕瑾のようにいいました。
— 若松賤子 『忘れ形見』 青空文庫
「あなた、よくまああたしのところへ帰ってきて下すって」 夫が帰ってくると、ヒルミ夫人はひと目も憚らず、潜々と涙をながして、逞しき夫の胸にすがりつくのであった。
— 海野十三 『ヒルミ夫人の冷蔵鞄』 青空文庫
橘はやっと二人のむくろのある土手のうえに辿りつくと、そのまま、草の上に膝をついて潜々と唏り泣いた。
— 室生犀星 『姫たちばな』 青空文庫
大急ぎで家から平常使い慣れたヴァイオリンを取り寄せて、今日は兎も角プログラムだけはなさらなければ――」 晴衣の紋付の袖も厭わず、涙は潜々として溢れ落ちます。
— 野村胡堂 『天才兄妹』 青空文庫