藪蚊
やぶか
名詞
標準
文例 · 用例
五月、六月、七月、そろそろ藪蚊が出て来て病室に白い蚊帳を吊りはじめたころ、私は院長の指図で、千葉県船橋町に転地した。
— 太宰治 『東京八景』 青空文庫
あたりはだんだんに薄暗くなって、どこからとも無しに藪蚊のうなり声が湧き出して来たので、半七は舌打ちした。
— 鬼娘 『半七捕物帳』 青空文庫
「まあ、うまくやりましょう」「ここにいて藪蚊に責められているのも知恵がねえ。
— 鬼娘 『半七捕物帳』 青空文庫
蜆の看板をかけた小料理屋を見つけて、奥の小座敷へ通されて夕飯を食っているうちに、萩を一ぱいに植え込んであるらしい庭先もすっかり暗くなって、庭も座敷も藪蚊の声に占領されてしまった。
— お照の父 『半七捕物帳』 青空文庫
そういうことには馴れているので、さのみ待ちくたびれるという程でもありませんでしたが、藪蚊の多いには恐れいりました。
— 正雪の絵馬 『半七捕物帳』 青空文庫
といって、今更漫才の仲間入りも出けんさかいな」 半袖を着た〆団治が西瓜の種を吐きだしながら言うと、相変らず落ちぶれている相場師が、「えらい藪蚊や」 と、団扇でそこらぱたぱた敲きながら、「――〆さん、おまはん一ぺんぐらい、寄席の切符くれても良えぜ。
— 織田作之助 『わが町』 青空文庫
物臭太郎はなまけもの、お腹が空いても臥てばかり、藪蚊が螫しても臥てばかり。
— 北原白秋 『とんぼの眼玉』 青空文庫
藪蚊が彼等の日に燒けた赤い足へ針を刺して、臀がたはら胡頽子の樣に血を吸うて膨れても、彼等はちくりと刺戟を與へられた時に慌てゝはたと叩くのみで蚊が逃げようとも知らぬ顏である。
— 長塚節 『土』 青空文庫