御酉様
おとりさま
名詞
標準
文例 · 用例
お酉さまへ諸共にと言ひしを道引違へて我が家の方へと美登利の急ぐに、お前一處には來て呉れないのか、何故其方へ歸つて仕舞ふ、餘りだぜと例の如く甘へてかゝるを振切るやうに物言はず行けば、何の故とも知らねども正太は呆れて追ひすがり袖を止めては怪しがるに、美登利顏のみ打赤めて、何でも無い、と言ふ聲|理由あり。
— 樋口一葉 『たけくらべ』 青空文庫
お酉さまへ諸共にと言ひしを道引違へて我が家の方へと美登利の急ぐに、お前一|處には來て呉れないのか、何故其方へ歸つて仕舞ふ、餘りだぜと例の如く甘へてかゝるを振切るやうに物言はず行けば、何の故とも知らねども正太は呆れて追ひすがり袖を止めては怪しがるに、美登利顏のみ打赤めて、何でも無い、と言ふ聲理由あり。
— 樋口一葉 『たけくらべ』 青空文庫
老人は、燠の火の中から黒い塊を火串で拾い刺して、「唐の芋、そら、お酉さまで、笹に通して売ってるでしょう、あれ」 黒い塊を冷めるように暫らく空気中を振り廻してからわたくしに串の根元を渡しました。
— 岡本かの子 『生々流転』 青空文庫
お酉さま前後から春へかけて、お庄は随分働かされた。
— 徳田秋声 『足迹』 青空文庫
わたしは四谷須賀町のお酉さまへ参詣に出かけました。
— 岡本綺堂 『白髪鬼』 青空文庫
「かんばんまで遊んでるでしよ」「うん――いいよ」「それからね、仁王門の側で待つててくれない」「――待つててもいいけど、なぜ」「お酉さま」「ああ、――今年は三の酉もあるんだね、不景気、火事多しか」「いやなの」「誰もいやと云ひやしない」 すつかり晴れあがつてゐた。
— 武田麟太郎 『一の酉』 青空文庫
あなたがいらっしゃるという電話でしたけれど、他の者の知らない間に主婦さんが、もう一昨日から断られないお客様にお約束を受けていて、つい今、お酉さまに連れられて行ったから、今晩は遅くなりましょうッて。
— 近松秋江 『別れたる妻に送る手紙』 青空文庫
まだ浅い馴染とはいいながら、それまでは行く度に機会好く思うように呼べたが、逢いたいと思う女が、そうして他の客に連れられてお酉さまに行った、と聞いては、固より有りうちのことと承知していながらも、流石に好い気持はしなかった。
— 近松秋江 『別れたる妻に送る手紙』 青空文庫