徃時
徃時
名詞
標準
文例 · 用例
首を回らせば徃時をかしや、世の春秋に交はりて花には喜び月には悲み、由無き七情の徃来に泣きみ笑ひみ過ごしゝが、思ひたちぬる墨染の衣を纏ひしより今は既、指をの霊地に運びて寺に霜は募りて樹※に紅は増す神無月の空のやゝ寒く、夕日力無く舂きて、晩れし百舌の声のみ残る、暮方のあはれさの身に浸むことかな。
— 幸田露伴 『二日物語』 青空文庫
嫌な夢を見た、何といふ嫌な夢だつたか、それは私の愚劣と家庭の――徃時の――醜悪とをまざ/\とさらけだしたものだつた。
— 種田山頭火 『其中日記』 青空文庫
今年馬齒七十に垂んとして偶然白鷺の舞ふを見て年少氣鋭の徃時を憶ふ。
— 永井荷風 『荷風戰後日歴 第一』 青空文庫
新冨町の老妓両三名を招ぎ、新島原徃時の事を聞かむと思ひしが、さしたる話もなし。
— 断膓亭日記巻之二大正七戊午年 『断腸亭日乗』 青空文庫
去年の此頃は人をも世をも恨みつくして、先人の旧居を去り寧溝壑に填せむことを希ひしに、いつとはなく徃時のなつかしく思返さるゝ折から、慈君のたよりを得て感動する事浅からず。
— 断腸亭日記巻之三大正八年歳次己未 『断腸亭日乗』 青空文庫
此の夜八百善の料理徃時の味なし。
— 断膓亭日記巻之四大正九年歳次庚申 『断腸亭日乗』 青空文庫