底翳
そこひ
名詞
標準
文例 · 用例
すでに老年の底翳が眼に來、針めどは見えず、手はふるへて二十年の活計を支へて來た仕事とも別れたのだつた。
— 島木健作 『第一義の道』 青空文庫
「底翳ですね……白ぞこひつて云ふんですね。
— 島木健作 『續生活の探求』 青空文庫
夏の空は底翳の眼の様にドンヨリと曇っていた。
— 江戸川乱歩 『恐ろしき錯誤』 青空文庫
肉落ちて血色なく、死人の如き面なれど、これのみは年も病もえ奪はざりけん、暗黒にして、渡津海のそこひなきにも譬へつべき瞳は、磁石の鐵を吸ふ如く、我面に注がれたり。
— IMPROVISATOREN 『即興詩人』 青空文庫
涙を惜め、涙を惜め、高品なわかい心のそこひもわかぬ胸の秘奥に啜り泣けよ。
— 北原白秋 『桐の花』 青空文庫
夜が更け、空が霽れ、蒼褪めはてた経験の貴さと冷たい霊性のなやみを染々と身に嗅ぎわけて、哀傷のけものは今深い闇のそこひからびやうびやうと声を秘めて鳴き続ける。
— 北原白秋 『桐の花』 青空文庫
そのおもての美しさ、濃き藍いろの目には、そこひ知らぬ憂ありて、一たび顧みるときは人の腸を断たむとす。
— 森鴎外 『うたかたの記』 青空文庫
それに、時々、その活き活きした目がかすむのを井筒屋のお貞が悪口で、黴毒性のそこひが出るのだと聴いていたのが、今さら思い出されて、僕はぞッとした。
— 岩野泡鳴 『耽溺』 青空文庫