温容
おんよう
名詞
標準
kindly face
文例 · 用例
」 と小さな袱紗づつみをちょっと口へ、清葉は温容なものである。
— 泉鏡花 『日本橋』 青空文庫
……上衣無しで、座敷着の上へ黒縮緬の紋着の羽織を着て、胸へ片袖、温容に褄を取る、襲ねた裳しっとりと重そうに、不断さえ、分けて今夜は、何となく、柳を杖に支かせたい、すんなりと春の夜風に送られて、向うから来る姿。
— 泉鏡花 『日本橋』 青空文庫
」「は……」 と、行違って、温容に見返りつつ、「姉さんて、可厭ですよ、ほほほ、人が悪いわ。
— 泉鏡花 『日本橋』 青空文庫
峯平かにして温容あり、翠色少しく淡きものは姥捨の山となす。
— 長塚節 『草津行』 青空文庫
が、いよいよ柔和に、温容で、「じゃが、ご心配ないようにな、暗い冷い処ではありません――ほんの掘立の草の屋根、秋の虫の庵ではありますが、日向に小菊も盛です。
— 泉鏡花 『菊あわせ』 青空文庫
それでも私は凡ゆる角度から見直して何か悪態の種を探さうとさへいきまくのであつたが、可憐で、気高く、温容に充ちて、飽くまでも頼もしさうな若者であるのみだつた。
— 牧野信一 『真夏の朝のひとゝき』 青空文庫
十時の汽車で博多へ、百道のTさんを訪ねたが不在、そしてやうやく老司の少年院を尋ねあてたが、三洞さんは博多の事務所にゐられるといふ、引き返して事務所へ、さらに仮寓へまで連れて行つて貰つて、三年ぶりに懐かしい温容に接することが出来た、坊ちやん二人を連れての下宿生活である。
— 種田山頭火 『道中記』 青空文庫
彼の温容が心を打ったこと、並、人生の切なさ、恐ろしさ、平凡の底に湛えた切迫さ、真剣さを、一時に感じ、涙となったと云ってよい。
— 宮本百合子 『有島武郎の死によせて』 青空文庫