籠もり
こもり
名詞
標準
文例 · 用例
白糸は始めに口籠もりたりしが、直ちに心を定めたる気色にて、「処女のように羞ずかしがることもない、いい婆のくせにさ。
— 泉鏡花 『義血侠血』 青空文庫
冬籠もりをした汽船は、水上にぬぎ忘れられた片足の下駄のように、氷に張り閉されてしまった。
— 黒島伝治 『国境』 青空文庫
そのころ猪野の詐欺横領事件は、大審院まで持ち込まれ、審理中であるらしく、猪野はいつも憂鬱そうに、奥の八畳に閉じ籠もり、酒ばかり呑んでいた。
— 徳田秋声 『縮図』 青空文庫
かくては所詮、我|業の進まむこと覚束なしと、旅店の二階に籠もりて、長椅子の覆革に穴あけむとせし頃もありしが、一朝大勇猛心を奮ひおこして、わがあらむ限の力をこめて、この花売の娘の姿を無窮に伝へむと思ひたちぬ。
— 森鴎外 『うたかたの記』 青空文庫
雪に閉じ籠められて働けない冬|籠もりの期間は、馬鈴薯と南瓜ばかり食っているために、春になると最早、顔が果物のように黄色を帯びて来て、人間の肌色を失っているのだった。
— 佐左木俊郎 『熊の出る開墾地』 青空文庫
山路になりてよりは、二頭の馬|喘ぎ喘ぎ引くに、軌幅極めて狭き車の震ること甚しく、雨さえ降りて例の帳閉じたれば息籠もりて汗の臭車に満ち、頭痛み堪えがたし。
— 森鴎外 『みちの記』 青空文庫
彼らが幾月も幾年もの間不自由な土窖に閉ぢ籠もり、あるかなきかの生活を繰り返してゐるうちに、彼らの見えざる眼は、絶えず渇けるもののやうに一滴の光明にもあくがれ、彼らの息苦しい呼吸は、飢ゑたるもののやうに、いつも新鮮な大気を欲しがつたのに相違ない。
— 薄田泣菫 『独楽園』 青空文庫
つまりその薩州小判で、蓮池の自宅の奥に数寄を凝らいた茶室を造って、お八代に七代とかいう姉妹の遊女を知行所の娘と佯って、妾にして引籠もり、菖蒲のお節句にも病気と称して殿の御機嫌を伺わなんだ。
— 夢野久作 『名君忠之』 青空文庫