母鶏
ははにわとり
名詞
標準
文例 · 用例
英国デヴォンシャーの一僧、魔法に精しきが、留守中、その一僕、その室に入って机上に開いた一巻を半頁足らず読む内、天暗く暴風至り戸を吹き開けて、黒色の母鶏が雛を伴れて入り来り、初め尋常の大きさだったが、ようやく増して母鶏は牛大となる。
— 鶏に関する伝説 『十二支考』 青空文庫
孵りて後僅かに半月、或は母鶏の背に升り、或は羽をくゞりて自から隠る、この間言ふ可からざるの妙趣ありて余を驚破せり。
— 北村透谷 『「桂川」(吊歌)を評して情死に及ぶ』 青空文庫
われ庭鳥の食を争ふを見る、而して争ふ時には常に少者の逃走するを見る、少者は母鶏の尤も愛する者なり、而して慾の即時に於ては、尤も愛する者も尤も悪む者となり、最後、尤も劣れるもの、尤も敗るゝ者となる。
— 北村透谷 『最後の勝利者は誰ぞ』 青空文庫
餌を拾う雄鶏の役目と、羽翅をひろげて雛を隠す母鶏の役目とを兼ねなければならなかったような私であったから。
— 島崎藤村 『嵐』 青空文庫
淡黄な色の雛は幾羽となく母鶏の羽翅に隠れた。
— 島崎藤村 『岩石の間』 青空文庫
正しく五母鶏、二母は真実鳥獣なるが故に、五母二母孰れか妻にして孰れか妾なるや其区別もなく、又その間に嫉妬心も見えず権利論も起らざるが如くなれども、万物の霊たる人間は則ち然らず、人倫の大本として夫婦婚姻を契約したる其婦人が、配偶者の狂乱破約を見て不平なからんと欲するも得べからず。
— 福沢諭吉 『女大学評論』 青空文庫
鶏さん雛の母さん鶏さん鳥屋に買はれてゆきました大寒 小寒で寒いのに雛と わかれてゆきました雛に わかれた母鶏さん鳥屋で さびしく暮すでせう。
— 野口雨情 『十五夜お月さん』 青空文庫
妻を失った後の岸本は、雛鳥のために餌を探す雄鶏であるばかりでなく、同時にまたあらゆる危害から幼いものを護ろうとして一寸した物音にも羽翅をひろげようとする母鶏の役目までも一身に引受けねばならなかった。
— 島崎藤村 『新生』 青空文庫