薬鑵
やかん
名詞
標準
文例 · 用例
薬鑵に水を入れかへたり、きふすを洗つたり、其の他、一々は云はないけれど、男一人でゐるとなると、却々忙しいものである。
— 中原中也 『散歩生活』 青空文庫
ストーブの上の薬鑵の湯気をみ入つてゐる時、「電車の救助網にでもかゝつて、今怪我をして病院にゆくとすれば、S子が見舞に来るんだ……」つてな夢みたいなものを鼻の上で小踊りさせた。
— 中原中也 『分らないもの』 青空文庫
退屈だし寒いので、火でも起こさうと隣りの部屋を開けると、驚いたことにはそこはもうチヤンと机や本箱が配置されてをり、火鉢には火が起こつてゐて、薬鑵も掛かつてゐる。
— 中原中也 『引越し』 青空文庫
右の方を仰ぐと、赤沢岳が無器用な円頂閣のように、幅びろく突ッ立って、その花崗岩の赤く禿げた截断面が、銅の薬鑵のような色をして、冷めたく荒い空気に煤ぶっている。
— 小島烏水 『槍ヶ岳第三回登山』 青空文庫
頸を伸ばして隣りの三畳間を覗くと、三畳間の隅に、こわれかかった七輪が置かれてあって、その上に汚く煤けたアルミニュームの薬鑵がかけられている。
— 太宰治 『不審庵』 青空文庫
私たちは七輪の前に列座して畳に両手をつき、つくづくとその七輪と薬鑵を眺めた。
— 太宰治 『不審庵』 青空文庫
薬鑵は顛倒して濛々たる湯気が部屋に立ちこもり、先生は、「あちちちちち。
— 太宰治 『不審庵』 青空文庫
自分の子供の時分に屋内の井戸の暗い水底に薬鑵が沈んだのを二枚の鏡を使って日光を井底に送り、易々と引上げに成功したこともあった。
— 寺田寅彦 『異質触媒作用』 青空文庫