罩
罩
名詞
標準
文例 · 用例
『間拔奴、見損やがつたか、汝、記憶えとけ、深川の芳兄いてで鳴らしたもんだい、手前達の樣な、女たらしに、一文たりとも貰ふ覺えはないぞ、ヘツ、どうだい、その面は、いやにキヨロツキやがつて、憚乍ら口惜しけりや腕ツコキで來い、白痴ツ』『女たらし』の一言に力を罩めて憤怒の焔燃ゆるが如し、果然彼には一物あり。
— 萩原朔太郎 『二十三夜』 青空文庫
2 冬の朝それからそれがどうなつたのか……それは僕には分らなかつたとにかく朝霧|罩めた飛行場から機影はもう永遠に消え去つてゐた。
— 亡き児文也の霊に捧ぐ 『在りし日の歌』 青空文庫
おつとり霧も立罩めて その上に月が明るみます、と、犬の遠吠がします。
— 中原中也 『山羊の歌』 青空文庫
三 朝霧が山村を罩めて、鶏の声が、霧の底から聞える、黄色い南瓜の花に、まだ夢が残つてゐるかして、寝惚けた姿をしだらなく大地に投げ出してゐる、ぼツと白壁が明るくなる、森がうつすらと、烟つぽい緑を、向うの山の懐に、だんだら、染めに浮かせる、起き上つて支度をする頃は、方々の家から、軽い炊煙が立ちはじめた。
— 小島烏水 『天竜川』 青空文庫
私は傷いた足で、看守長の睾丸を全身の力を罩めて蹴上げた。
— 葉山嘉樹 『牢獄の半日』 青空文庫
その煙がまた、風のないために未練気に、いつまでも谿谷に立ち罩めて、川向いの飯場までも、いやな臭いを嗅がねばならなかった。
— ――生きる為に―― 『山谿に生くる人々』 青空文庫
浦に着きしころは日落ちて夕煙村を罩め浦を包みつ。
— 国木田独歩 『源おじ』 青空文庫
三ヶ|月ほどの南北支那の旅を終つて、明日はいよいよ懷しい故國への船路に就かうといふ前の晩、それは乳色の夜靄が町の燈灯をほのぼのとさせるばかりに立ち罩めた如何にも異郷の秋らしい晩だつたが、僕は消息通の一|友と連れ立つて上海の町をさまよひ歩いた。
— 南部修太郎 『麻雀を語る』 青空文庫