新口
しんこう
名詞
標準
文例 · 用例
ここがわしの生れ在所、四、五丁ゆけば、などと、やや得意そうに説明して聞かせる梅川忠兵衛の新口村は、たいへん可憐な芝居であるが、私の場合は、そうではなかった。
— 太宰治 『故郷』 青空文庫
しかし、二七日の夜、追悼浄瑠璃会が同じく天牛書店二階でひらかれたとき、豹一を連れて会場に姿を見せたお君は、校長が語った「新口村」の梅川のさわり、金より大事な忠兵衛さんで、パチ/\と音高く拍手した。
— 織田作之助 『雨』 青空文庫
くさやの干物に新口ができたとかいう評判ですが、そのことですかい」「しようのねえ風流人だな。
— お蘭しごきの秘密 『右門捕物帖』 青空文庫
その晩、雛吉は得意の新口村を語ったが、途中から喉の工合いがおかしくって、持ち前の美音が不思議にかすれて来た。
— 岡本綺堂 『探偵夜話』 青空文庫
狂言は「ひらがな盛衰記」の逆櫓、「鬼一法眼」の菊畑、「為朝」の八丈島、「梅川忠兵衛」の封印切から新口村などで、子供芝居流行の気運に乗じたためか、この興行もまた相当の成績を収めた。
— 岡本綺堂 『明治劇談 ランプの下にて』 青空文庫
意地と、色とをごっちゃにして、売っている、泥溝板長屋の富士春を知らねえか」「その啖呵あ、三度聞いた」「じゃあ、新口だよ。
— 直木三十五 『南国太平記』 青空文庫
私は、何うかして、此の寂しく廃れたような心持を、少しでも陽気に引立てる工夫はないものか、と考えながら何の気なく、其処にあった新聞を取上げて見ていると、有楽座で今晩丁度呂昇の「新口村」がある。
— 近松秋江 『別れたる妻に送る手紙』 青空文庫
寂しくって物足りないのは同じだが、その有楽座の新口村を聴いてから、あの「……薄尾花も冬枯れて……」と、呂昇の透き徹るような、高い声を張り上げて語った処が、何時までも耳に残っていて、それがお宮を懐かしいと思う情を誘って、自分でも時々可笑いと思うくらい心が浮ついて、世間が何となく陽気に思われる。
— 近松秋江 『別れたる妻に送る手紙』 青空文庫