明け渡し
あけわたし
名詞
標準
文例 · 用例
然も婦人の前、蝸牛が城を明け渡したやうで、口を利くさへ、況して手足のあがきも出来ず背中を丸くして、膝を合はせて、縮かまると、婦人は脱がした法衣を傍の枝へふわりとかけた。
— 泉鏡太郎 『高野聖』 青空文庫
この温泉場は、泊からわずか四五里の違いで、雪が二三尺も深いのでありまして、冬向は一切|浴客はありませんで、野猪、狼、猿の類、鷺の進、雁九郎などと云う珍客に明け渡して、旅籠屋は泊の町へ引上げるくらい。
— 泉鏡花 『湯女の魂』 青空文庫
もし不承知ならば即刻に店を明け渡して、どこへでも勝手に立ち退けと云った。
— 猫騒動 『半七捕物帳』 青空文庫
しかも婦人の前、蝸牛が城を明け渡したようで、口を利くさえ、まして手足のあがきも出来ず、背中を円くして、膝を合せて、縮かまると、婦人は脱がした法衣を傍らの枝へふわりとかけた。
— 泉鏡花 『高野聖』 青空文庫
彼はさうする前に、自分の家が新らしい家主に渡りかけたところで、明け渡しを迫られたが、借家の払底なをりだつたので、家が容易に見つからなかつた。
— 徳田秋声 『風呂桶』 青空文庫
成善は部屋を明け渡した。
— 森鴎外 『渋江抽斎』 青空文庫
これは江戸城明け渡しの因縁に依って、それを逆に行こうと云うわけであったが、勝が「全権を余に委任する上は、西郷の意を容れなければいけない。
— 菊池寛 『田原坂合戦』 青空文庫
その持ち役の人物と扮装と科白と仕草とに自分の本心を明け渡して終う。
— 夢野久作 『鼻の表現』 青空文庫